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東京地方裁判所 平成5年(行ウ)154号 判決

東京都新宿区西新宿八丁目一五番一号

原告

株式会社武富士

右代表者代表取締役

秋吉良雄

右訴訟代理人弁護士

物部康雄

東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号

被告

新宿税務署長 武田信彦

右訴訟代理人弁護士

上野至

右指定代理人

秋山仁美

柳井康夫

木本邦男

植松香一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用と原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成元年一二月六日付けでした原告の昭和六〇年一二月一日から昭和六一年一一月三〇日までの事業年度分の法人税の更正のうち、所得金額一九八億六一一〇万一四三二円、納付すべき税額八六億三四二六万七二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち一〇七二万五〇〇〇円を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、貸金業を営む株式会社であるが、昭和六二年二月二八日、原告の昭和六〇年一二月一日から昭和六一年一一月三〇日までの事業年度分(以下「係争事業年度分」という。)の法人税について、同年度中に訴外株式会社公保に譲渡した東京都豊島区西池袋一丁目三〇番一の土地一三四六・一〇平方メートル(以下「本件土地」という。)の譲渡益を含め、所得金額を一九五億九八六七万〇四三一円(うち課税土地譲渡利益金額は八億七二〇九万円)、納付すべき税額を八五億一四五六万八〇〇〇円とする確定申告をした。

2  京橋税務署長は、昭和六三年一一月二八日、原告に対し、係争事業年度分の原告の所得金額を一九八億六一一〇万一四三二円(課税土地譲渡利益金額は申告どおり)、納付すべき税額を八六億三四二六万七二〇〇円とする法人税の更正(以下「当初更正」という。)をするとともに、一〇七二万五〇〇〇円の過少申告加算税を賦課する決定をした。

3  さらに、京橋税務署長は、平成元年一二月六日、原告に対し、申告に係る本件土地の譲渡原価四九億五〇六〇万九〇〇〇円のうち六億一三三五万三五五〇円は、その使途が不明であり、本件土地の譲渡原価とは認められないとして、その損金算入を否認し、係争事業年度分の原告の所得金額を二〇四億七四四五万四九八二円(うち課税土地譲渡利益金額は一五億八七六六万九〇〇〇円)、納付すべき税額を八九億〇一三七万〇五〇〇円に増額する法人税の更正(以下「本件更正」という。)をするとともに、一三三五万五〇〇〇円の過少申告加算税を賦課する決定(以下「本件決定」という。)をした。

4  原告は、本件更正及び本件決定を不服として、平成元年一二月二六日、京橋税務署長に異議申立てをしたところ、平成二年六月四日棄却されたため、同年七月三日、国税不服審判所長に審査請求をしたが、平成五年二月二六日これも棄却された。

被告は、原告の本店移転に伴い、京橋税務所長から事務を承継した者である。

5  しかしながら、本件更正は、当初更正に係る所得金額を上回る限度で、原告の係争事業年度分の原告の所得を過大に認定したものであり、本件更正及び本件決定は、違法である。

よって、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし4の各事実は認めるが、5は争う。

三  被告の主張

1  本件土地の取得経過等

(一) 原告は、昭和五八年七月二一日、訴外株式会社エスポ環境開発(後に「株式会社エスポ」に商号変更、以下「エスポ」という。)との間で、エスポが池袋駅北口付近の一六筆の一団の土地(総面積二四七四・〇九平方メートル)を地上げしたうえ、これを原告が買い受ける旨の土地売買予約契約(以下「基本契約」という。)を締結し、当時原告の不動産課長の地位にあった猿橋岳近(以下「猿橋」という。)が、右買収業務に関する原告の担当者となった。

(二) 原告とエスポとは、昭和五八年九月、基本契約で予定された買収計画地のうち、後記の合筆が行われる前の東京都豊島区西池袋一丁目三〇番一、三〇番九、三〇番一二ないし三〇番一六の七札合計地積八五五平方メートル余りの土地(以下、一括して「本件各土地」という。)の各持分三分の一(以下「本件各持分」という。)については、原告と訴外天峰工業株式会社(以下「天峰工業」という。)との間で取引する旨の覚書(以下「本件覚書」という。)を取り交わした。

そして、原告と天峰工業との間で、天峰工業が所有する本件各持分を代金九億二〇〇二万六八〇〇円で原告に売り渡す旨を記載した昭和五八年九月七日付け売買契約書が作成され、原告から、昭和五八年九月七日に五億〇六六七万三二五〇円が、昭和五八年一二月二四日に三億一三三五万三五五〇円が、それぞれ太陽神戸銀行池袋支店に開設された天峰工業名義の普通預金口座に振り込まれたほか、昭和五九年八月二四日に合計金額一億円の預金小切手(額面金額が九五〇〇万円のもの一通と額面金額が五〇〇万円のもの一通)が天峰工業に交付された。

(三) 原告は、結局、基本契約による買収計画地二四七四・〇九平方メートルのうち一三四六・一〇平方メートルを取得することに成功し、これらの土地を東京都豊島区西池袋一丁目三〇番一(本件土地)の一筆に合筆登記したうえ、昭和六一年六月一九日、訴外株式会社公保に転売した。

(四) 原告は、前記天峰工業に対する支払分の九億二〇〇二万六八〇〇円(以下「本件金員」という。)を含む合計四九億五〇六〇万九〇〇〇円が本件土地の譲渡原価であるとして、これを係争事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入して、法人税の確定申告をした。

2  本件金員の一部の損金不算入

しかし、本件金員のうち、実際にエスポに支払われた三億〇六六七万三二五〇円を除く六億一三三五万三五五〇円(以下「係争金額」という。)は、その使途が不明であり、係争事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入されないというべきである。

すなわち、猿橋は、何らかの用途に用いる資金を捻出する必要があったことから、エスポとの間で本件覚書による合意を行い、天峰工業を原告とエスポとの本件各持分の取引の中間に介在させ、エスポから天峰工業に本件各持分を三億〇六七七万三二五〇円で売却させたうえ、原告が本件金員を支払って天峰工業から本件各持分の転売を受けたことにし、天峰工業にその差額六億一三三五万三五五〇円の転売差益が生じるようにしたものであって、猿橋は、本件金員を自ら管理し、天峰工業の預金口座に振り込まれた金員の中から、三億〇六七七万三二五〇円をエスポへ支払った後の残余の係争金額を何らかの用途に費消したものである。

このことは、昭和五八年九月当時、天峰工業が多額の債務を抱えた休眠中の会社であって、本件各持分の買収に関する業務を何ら行っていないこと、本件各持分の買収を行ったとすればエスポ以外には存在しないこと、係争金額が本件各持分の代金としてエスポに支払われた事実はないこと、天峰工業もエスポもその使途に全く関知していなかったことに照らしても、明らかである。

以上のとおり、係争金額は、本件各持分の取得のために費消されたものではなく、これが何の目的でどのように使用されたのかという点も一切明らかではないから、いわゆる使途が不明な金額であり、本件土地の譲渡原価として損金の額に算入されるものではないというべきである。

3  本件更正の適法性

(一) 原告の所得金額

前記のとおり、本件金員のうち係争金額は係争事業年度の取得金額の計算上損金の額に算入されないから、原告が争わない当初更正に係る所得金額に係争金額を加算した係争事業年度分の原告の所得金額は、二〇四億七四四五万四九八二円となり、本件更正には原告の所得金額を過大に認定した違法はない。

(二) 原告の課税土地譲渡利益金額

(1) 原告の申告金額

原告が確定申告書に記載した係争事業年度分の土地譲渡収益の額は七八億〇八七〇万円、土地譲渡原価の額は五九億一六八三万一五八〇円、土地譲渡経費の額は一〇億一九七七万八六〇四円であり、その土地譲渡原価の額には本件金員が含まれていた。また、その土地譲渡経費の額は本件金員中の係争金額が譲渡原価になるという前提で計算された金額であり、係争金額が土地譲渡原価にならないものとして、土地譲渡経費を計算し直した場合には、その金額は九億一七五五万二四七一円となる。

(2) 前記のとおり、本件金員のうち係争金額は土地譲渡原価とならないから、原告の係争事業年度における土地譲渡原価の額は五三億〇三四七万八〇三〇円であり、これに対応する土地譲渡経費の額は九億一七五五万二四七一円であるから、係争事業年度分の原告の課税土地譲渡利益金額は、一五億八七六六万九四九九円となる。

(三) 納付すべき税額

(1) 法人税法による税額

係争事業年度における原告の右(一)の所得金額二〇四億七四四五万四〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により千円未満の端数を切捨て)及び本件更正後の課税留保金額一一億七九〇七万円の合計金額を対象として、法人税法六六条(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)及び同法六七条の規定に基づき算出される法人税の額は、八八億五九七二万四一八二円である。

(2) 租税特別措置法による税額

係争事業年度分の原告の右(二)の課税土地譲渡利益金額一五億八七六六万九〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により千円未満の端数を切捨て)について租税特別措置法六三条(昭和六二年法律第一四号による改正前のもの)の規定に基づき算出される法人税の額は、三億一七五三万三八〇〇円である。

(3) 控除すべき所得税額

原告の確定申告に係る法人税法六八条(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)所定の控除すべき所得税額は、二億七五八八万七四七四円である。

(4) 納付すべき法人税額

右(1)及び(2)の合計税額から右(3)を控除した係争事業年度分の法人税額は八九億〇一三七万〇五〇〇円(国税通則法一一九条一項により百円未満の端数を切捨て)であるから、本件更正に係る法人税額は適法に算出されたものである。

4  本件決定の適法性

本件更正によって原告が新たに納付すべき法人税額二億六七一〇万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切捨て)を基礎として国税通則法六五条一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)の規定により計算される過少申告加算税額は、一三三五万五〇〇〇円であり、本件決定に係る税額は適法に算出されたものである。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張1の事実は認める。

2  同2は否認する。

基本契約によれば、エスポは、買収計画地の地権者と交渉を行い、自己又は自己の指定する第三者の名で土地を取りまとめ、エスポに代わって第三者の名義人をして原告と取引できることが予定されていたところ(基本契約諸三条一項)、原告は、エスポが本件各持分の取引について天峰工業を指定したので、本件覚書を取り交わし、基本契約の約定に従い、本件各持分の買収価格に相当する本件金員(基本契約によって予め設定されていた買収単価によれば、本件各持分の買収価格の合計は九億二〇〇二万六八〇〇円である。)をエスポの指定する天峰工業宛に支払ったままであり、天峰工業が原告から支払を受けた本件金員のうちいくらをエスポに支払ったのか、エスポに支払われなかった金額についてどのような処分がされたのかという点は、エスポと天峰工業との間の問題であり、原告の全く関知しないところである。

このように、原告・天峰工業間の本件各持分の取引と本件金員の支払は、基本契約に基づくエスポの要請に従ってされたものであり、本件金員は、まさに本件各持分を取得するために支出されたものであって、そのことは、本件金員のうち係争金額がエスポに渡っていないとの一事から否定されるはずがなく、本件金員は、その全額が本件土地の譲渡原価となるものである。

3(一)  同3(一)は争う。

(二)  同3(二)の(1)は認めるが、(2)は争う。

(三)  同3(三)の(3)は認めるが、(1)、(2)及び(4)は争う。

4  同4は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一課税処分の経緯等について

請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

第二係争金額の譲渡原価性について

一  被告の主張1の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、原本の存在及び成立に争いのない甲第一、第二、第四号証、乙第七号証の一、第一一号証、証人猿橋岳近の証言によって成立の真正(乙第二号証のほかは原本の存在を含む。)を認める甲第五ないし第七号証、乙第二、第九号証、証人平井弘の証言によって原本の存在及びその成立を認める甲第八号証、証人高田敏男の証言によって成立の真正(乙第六、第八号証については原本の存在を含む。)を認める乙第三、第四、第六、第八号証、弁論の全趣旨によって原本の存在及びその成立を認める乙第一〇号証、証人猿橋岳近(後記惜信しない部分を除く。)、同同平井弘及び同高田敏男の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  基本契約は、エスポが計画していた池袋駅北口付近の一六筆の土地合計二四七四・〇九平方メートルの地上げについて、原告が買収に必要な資金をエスポに提供し、地上げに成功した暁には、原告においてその土地を購入することを目的として締結されたものであり、買収計画地を三つに区分したうえ、各区分ごとに原告がエスポから買い受ける一平方メートル当たりの単価(以下、その単価を乗じて計算される土地の価額を「予定価額」という。)と建物明渡費用が予め設定されていた。

原告としては、エスポによる地上げが途中で頓挫する可能性もあることを考慮し、エスポと個々の地権者との売買交渉が成立した段階で、エスポに対し、エスポが地権者との当該土地の売買契約をするのに必要な金額を予約証拠金という形で支払い、その後、一体的利用が可能な前記区分ごとに買収物件が取りまとめられた時点で、エスポから原告が正式に購入するという方法をとることとし(基本契約書三条、五条)、また、建物明渡費用については、その二分の一相当額を明渡交渉の着手時に予約証拠金として支払い、残金は買収計画地全部の明渡完了時に支払うものとした(基本契約書四条二項)。

2  猿橋は、原告の不動産課長として不動産投資業務を担当し、原告の武井保雄会長からも期待され、本件の池袋駅北口付近の土地の買収業務については、かなりの部分を任されてこれに従事していた。

ところで、基本契約の締結後、原告が買収資金を支出して本件の買収計画にかかわっていることを知った不動産業者らが何かと理由をつけて斡旋解決料などの支払を要求するといった動きがあり、猿橋としては、これは本来エスポ側で解決すべき問題であると考え、検討を求めたが、エスポがこれに対応するには資金的に難しいということであったため、猿橋は、武井保雄会長と親しい間柄にあり、当時、原告が東京都千代田区麹町二丁目の土地の買収を依頼していた八丈島太平洋綜合観光株式会社の代表者である原田衛に相談したところ、取り敢えず先方の要求に応じた方が得策ではないかとの助言を得た。しかし、猿橋としては、原告が基本契約に基づく金額以上の資金を支出することは社内稟議の関係から困難であるため、折から、エスポにおいて本件各持分の買収が可能となったことを契機に、エスポ側と相談のうえ、本件各持分について、エスポから中間業者に低価額でこれを一旦売却したことにしたうえ、その中間業者から原告が予定価額で転売を受けたことにし、その差額分を資金として、問題の解決を図ることを計画し、原田衛から、そのような中間業者として天峰工業の紹介を受けた。

3  天峰工業は、本件各土地の買収業務に関係したことは全くなかったが、代表者の轟徳市は、猿橋の依頼を受け、天峰工業が本件各持分の転売を行う中間業者として名義を科すことを承諾し、エスポとしても、本件各持分については猿橋の前記計画に従って処理することを了解したことから、いずれも昭和五八年九月七日付けで、エスポが本件各持分を三億〇六六七万三二五〇円で天峰工業に売り渡す旨の売買契約書(乙第一〇号証)及び天峰工業が本件各持分を九億二〇〇二万六八〇〇円で原告に売り渡し、原告は内金として五億〇六六七万三二五〇円を支払う旨の売買契約書(乙第一一号証)が作成され、原告は、右同日に五億〇六六七万三二五〇円を太陽神戸銀行池袋支店の天峰工業名義の預金口座に振り込んだ。

4  猿橋は、天峰工業名義の預金口座に振り込まれた右金員の中から、三億〇六六七万三二五〇円を直ちにエスポの同支店の預金口座に振り替える手続をとった。

原告・天峰工業間の前記売買契約書では、残代金の支払時期は定められておらず、ただ本件各土地に存する建物及びその借家人の明渡し等に係る保障金などについて、天峰工業が必要の都度請求し、原告が売買代金の一部として支払う旨定められていたが(なお、原告の稟議書〈甲第六号証〉では、中間金として二か月以内に二億一三三五万三五五〇円、全持分取得時に二億円を支払うものとされていた。)、その後、原告は、昭和五八年一二月二四日、天峰工業名義の右預金口座に三億一三三五万三五五〇円を振り込んだほか、昭和五九年八月二四日、二通の預金小切手(九五〇〇万円と五〇〇万円)により一億円を出金し、天峰工業名義の一億円の領収証が作成された。

5  天峰工業名義の預金口座に振り込まれた最初の五億〇六六七万三二五〇円のうちエスポに振り替えられた三億〇六六七万三二五〇円を除く二億円は、その後、太陽神戸銀行日本橋支店の天峰工業名義の預金口座に振替入金され、昭和五八年九月一二日に一億一五〇〇万円が、九月一九日に八五〇〇万円が、それぞれ払い戻され、また、二回目の三億一三三五万三五五〇円も、昭和五八年一二月二六日から昭和五九年二月二四日までの間に現金等により払い戻されており、さらに、九五〇〇万円の小切手は、太陽神戸銀行池袋支店に新規開設された森下昭雄名義の預金口座で取り立てられ、昭和五九年八月二五日に九〇〇〇万円、九月五日に五〇〇万円が払い戻され、五〇〇万円の小切手は、協和銀行池袋支店に新規開設された佐藤貞一名義の預金口座で取り立てられ、昭和五九年八月三一日に四〇〇万円、九月一〇日に一〇〇万円が払い戻されている。

天峰工業の代表者の轟徳市は、本件各持分の取引に関しては手数料ないし名義料として約一〇〇〇万円を貰っただけで、天峰工業名義の銀行口座等に入金された本件金員は、猿橋が実質的にこれを管理していたが、エスポの代表者の伊藤和夫は、税務当局に提出した申立書等(乙第三号証、第六号証)において、本件各持分に関しては三億〇六六七万三二五〇円以外の金員は受け取っていないと述べており、係争金額の一部が前記の不動産業者らに対する解決金などの用途に充てられたのではないかと窺われる(ただし、誰にいくら支払われたのか全く明らかではない。)ほか、その使途は必ずしも明らかでなく、証拠上これを的確に認めることは困難である。

6  結局、エスポは、本件各持分を除く本件各土地の残りの持分三分の二と合筆前の三〇番七及び三〇番八の土地を原告に売却し、原告が本件土地の取得代金としてエスポに支払った金額は、直接エスポ宛に支払った四〇億三〇五八万二二〇〇円と天峰工業名義の預金口座を経由して支払った三億〇六六七万三二五〇円の合計四三億三七二五万五四五〇円となるが(なお、基本契約によれば、本件土地の予定価額は合計四〇億六〇〇〇万円余りであり、そのうち本件各土地に係る分は二七億六〇一三万七一〇〇円である。)、原告は、本件土地の全部を更地の状態で取得したわけではなく、本件各土地上には建物があり、その建物には未だ多数の賃借人が明渡交渉未了のまま残っている状態で取得した。

二1  ところで、証人猿橋の証言及び甲第三号証中には、本件各持分の売主を天峰工業としたのはエスポの要請に基づくものであるとか、本件金員のうち係争金額は買収計画地上の建物の明渡しの解決金に用いられるものとして天峰工業経由でその全額がエスポに支払われたものであるなどという右認定に反する部分がある。

2  しかし、買収計画地上の建物の明渡しの解決金に充てるためであるならば、エスポとしては、何も中間に業者を介在させる必要はなく、エスポが直接原告に九億二〇〇二万六八〇〇円で売却すればよかったのであって、エスポが原告から買収に関する資金の提供を受けるために、なぜ、天峰工業に六億円余りもの転売差益を生じさせるような転売が行われる必要があったのか不可解であり、この点に関する証人猿橋の証言は極めて不合理、不自然であって、証人猿橋の証言によって、エスポが天峰工業の介在を要請する必要があったと解すべき理由は見いだし難いといわなければならない。

しかも、証人猿橋は、一方で、天峰工業を介在させたのは、原告としてエスポに建物の明渡解決資金を支出することが困難であったことから、その便法として土地取得費名目で原告から本件金員を支出させるためであったとも証言しており、そうだとすれば、エスポに資金を流すためのいわばトンネル会社として天峰工業を介在させなければならない理由は、むしろ原告側にあったということにもなりかねないし、また、基本契約においては、原告がエスポに建物明渡費用も含めた資金を提供することが合意されていたのであるから、天峰工業経由でないと原告がエスポに明渡解決資金を支出することができない社内の事情があったとは考え難いのであって、この点に関する同証人の証言には、必ずしも一貫性がなく、その信用性に多大の疑問がある。

3  また、証人平井弘の証言によれば、猿橋は、原告の経理部長として本件の調査をしていた平井弘に対しても、本件金員のうちの係争金額の使途を一切明らかにしなかったというのであり、証人猿橋の証言するように本件金員の金額がそのままエスポに渡っているというのであれば、何も平井弘に対してこれを隠す必要はないのであって、猿橋がその使途を明確にしなかったということ自体、本件金員の全額がエスポに支払われていないことを物語るものといわなければならない。

4  以上のとおり、本件各持分の売買に天峰工業を介在させた理由が、エスポの要請に基づくものであり、本件金員の全額が天峰工業経由でエスポに支払われている旨の証人猿橋の証言部分及び甲第三号証の記載部分はにわかに信用し難く、他には前記認定を覆すに足りる証拠はない。

三  前記認定した事実によれば、猿橋は、不動産業者らからの金銭支払要求に対処するため、エスポと相談のうえ、転売差益という形で余剰資金を捻出することを計画し、原告がエスポから本件各持分を購入するに当たって、天峰工業をその中間業者として介在させることとしたものであって、本件各持分の売買代金名目で支出された本件金員のうち係争金額は、猿橋において実質的に管理され、右不動産業者らとの解決金(ただし、誰にいくらという点は明らかでない。)など何らかの形で費消されたものということができる。そして、右係争金額がいかなる使途に支出されたかの詳細は明らかでないが、いずれにせよ、右係争金額が本件各持分の対価を構成するものでないことは明らかであるし、また、その使途が明らかでない以上、それが本件土地を取得するためのその他の費用に充てられたと認めることもできないのであるから(なお、天峰工業に手数料ないし名義料として約一〇〇〇万円が支払われているが、右金員は架空取引の名義借用のための謝礼金であるから、このような支出を損金の額に算入することはできない。)、結局、右係争金額は本件土地の譲渡原価となるものではなく、これを係争事業年度の原告の所得金額の計算上損金の額に算入することはできないというべきである。

第三本件更正の適法性について

原告が争わない当初更正に係る所得金額一九八億六一一〇万一四三二円に、係争金額六億一三三五万三五五〇円を加えた係争事業年度の原告の所得金額は二〇四億七四四五万四九八二円となるから、本件更正には原告の所得金額を過大に認定した違法はない。

また、抗弁3(二)の(1)は当事者間に争いがないから、係争金額が土地譲渡原価にならない結果、係争事業年度の原告の課税土地譲渡利益金額は、被告主張のとおり一五億八七六六万九四九九円となる。そして、抗弁3(三)の(3)は当事者間に争いがないところ、本件更正に係る法人税額は、係争事業年度の原告の所得金額、課税土地譲渡利益金額に基づき、国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)、法人税法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)、租税特別措置法(昭和六二年法律第一四号による改正前のもの)に従って適法に算出されたものと認められる。

第四本件決定の適法性について

本件決定は、本件更正によって原告が新たに納付すべきことになる法人税額に基づき、国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)に従って適法に算出された過少申告加算税額を賦課するものと認められる。

第五結論

以上の次第で、本件更正及び本件決定はいずれも適法であり、本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 橋詰均 裁判官武田美和子は、転補のため、署名捺印することができない。裁判長裁判官 佐藤久夫)

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